STEMアトリエ / 三平方の定理 / 解説
三平方の定理とは — 3辺に立てた正方形の面積で見る a²+b²=c²
三平方の定理とは、 直角三角形で、直角をはさむ 2 辺を a・b、直角と向かい合う辺(斜辺)を c とすると、a²+b²=c² がいつでも成り立つ、という関係のことです。ピタゴラスの定理とも呼ばれます。
机の角。縦の辺と横の辺が、きっちり直角に交わっています。この 2 本の長さが分かっていれば、角から角へ斜めに引いた線の長さは、定規を当てずに計算だけで出せます。中学で習う面積の話から、大学院で扱う「そもそも距離とは何か」という問いまで、この式はずっと同じ顔をして現れます。
3 辺のうち、1 本だけあつかいが違う
直角三角形には辺が 3 本ありますが、対等ではありません。直角をはさんでいる 2 本と、直角の正面にある 1 本。この 1 本を 斜辺 と呼び、残り 2 本とは別の場所に置いて式を立てます。
なぜ正面の辺だけ特別なのか。直角を少しずつ開いていくところを想像すると分かります。直角をはさむ 2 辺の長さをそのままにして角だけを 90° より大きくすると、向かい側の辺は伸びる。小さくすれば縮む。つまり斜辺は、直角という角度の「記録係」を務めているわけです。その記録の仕方を書き下した式が a²+b²=c²。
斜辺は「直角の向かい」。傾けても変わらない
教科書の図はたいてい直角が左下にあって、右上へ向かう辺が斜めに描かれています。ここで「斜めに見えている辺が斜辺」と覚えてしまうと、テストで図が回転した瞬間に手が止まります。
決まり方はもっと単純です。直角マークを探す。その正面にある辺が斜辺。図がどう傾いていても、鏡に映っていても、この対応は変わりません。おまけの確認方法として、斜辺は必ず 3 辺の中でいちばん長くなります。選んだ辺が最長でなければ、直角の位置を取り違えています。
足しているのは、長さではなく面積
直角をはさむ 2 辺が 3 と 4 のとき、斜辺は 7 ではありません。5 です。
3+4=7 としたくなるのは自然な誤りで、実際「長さを足す」のではないところがこの定理の勘どころです。3 辺それぞれを一辺とする正方形を、外向きに立ててみてください。小さい方の 2 つは面積 9 と 16、合わせて 25。大きい方の正方形は、ぴったり 25 になります。25 の正方形の一辺は 5 ですから、斜辺は 5。
長さのまま足すと合いませんが、正方形の面積にしてから足すと合う。ここが a²+b²=c² の意味です。
3・4・5 のほかにも、きれいな組がある
3 辺がすべて整数になる直角三角形は、3・4・5 だけではありません。5・12・13、8・15・17、7・24・25 と続きます。こうした整数の組を ピタゴラス数 と呼びます。
25+144=169 で、169 は 13 の 2 乗。手計算で確かめられるので、覚えておくとテストの検算が速くなります。
つまずきポイント — 公式より、その手前でつまずく
公式そのものを間違える人は、あまりいません。詰まるのはいつも手前です。どの辺を c に入れるのか。そもそも、いま使っていい場面なのか。取り違えは、次の 3 か所に集まります。
斜辺は、図の中で斜めに見えている辺のこと
3 辺の長さが分かれば、a²+b²=c² を使える
箱に入る棒の長さは、いちばん長い辺で決まる
現実の応用例 — 巻き尺・画面・地図
巻き尺 1 本で建物の直角を出す。画面の大きさを、たった 1 つの数字で伝える。どちらも斜めの長さと 2 辺のあいだを行き来しているだけです。
大工さんは、分度器を使わずに直角を出す
スマホの「6.1 インチ」は、どこを測った長さ?
地図アプリの「ここから 480m」の出し方
よくある質問
Q斜辺はどうやって見分ければいいですか?
直角と向かい合っている辺が斜辺です。図の中で斜めに見えているかどうか、下にあるか上にあるかは関係ありません。まず直角マークを探して、その正面にある辺を見る——この順番なら、問題図が回転していても反転していても取り違えません。確認用のコツとして、斜辺は必ず 3 辺の中でいちばん長くなります。
Q三平方の定理は、直角三角形以外でも使えますか?
そのままの形では使えません。a²+b²=c² が成り立つのは直角三角形だけです。ただし高校で習う余弦定理 c² = a²+b²−2ab·cosC を使うと、どんな三角形でも 3 辺と 1 つの角を結びつけられます。角 C が 90° のとき cos90° = 0 なので、最後の項が消えて a²+b²=c² に戻ります。三平方の定理は、余弦定理のちょうど直角の場合にあたるわけです。
Q3 辺がすべて整数になる直角三角形は、3・4・5 のほかにもありますか?
無限にあります。5・12・13、8・15・17、7・24・25、20・21・29 などが有名で、こうした整数の組をピタゴラス数と呼びます。3・4・5 を 2 倍した 6・8・10 のように、整数倍したものもすべてピタゴラス数になります。m > n > 0 の整数を選んで (m²−n², 2mn, m²+n²) を計算すると、いくらでも作り出せます(m=2, n=1 なら 3・4・5)。
Q三平方の定理の「逆」とは何ですか?
「直角三角形なら a²+b²=c²」の向きをひっくり返して、「3 辺が a²+b²=c² を満たすなら、その三角形は直角三角形」と言えることです。長さを測るだけで直角かどうかを判定できるので、実際の現場で重宝します。等しくない場合も情報になり、a²+b² が c² より大きければいちばん長い辺の向かいの角は 90° より小さく(鋭角)、小さければ 90° より大きい(鈍角)と分かります。
Q空間図形(立体)でも三平方の定理は使えますか?
使えます。直方体の中を斜めに貫く対角線は √(縦²+横²+高さ²) で求まります。この式は魔法ではなく、三平方の定理を 2 回続けて使った結果をまとめたものです。まず底面の対角線を出し、それを新しい 1 辺として高さともう一度組み合わせる。縦 3・横 4・高さ 12 の箱なら、底面の対角線が 5、次に √(5²+12²) = 13 となります。
Qこの定理は、ピタゴラスが発見したのですか?
はっきりしていません。ピタゴラス自身が書き残したものは伝わっておらず、この定理を彼と結びつける記述が現れるのは、生きていた時代からおよそ 500 年後のプルタルコスやキケロなどの文章です。彼の学派には成果を師の名で語る習わしがあったとも言われています。一方で、紀元前 1800 年ごろのバビロニアの粘土板「プリンプトン 322」には、ピタゴラス数が 15 行にわたって並んでいます。インドのシュルバスートラにも同じ関係の記述があり、複数の文明がそれぞれにたどり着いたと考えられています。
やってみよう
回転角のつまみを端から端まで回しても、ハイライトは同じ辺から離れません。その粘り強さを一度見ておくと、テストの図がどれだけ傾いていても手が止まらなくなります。
シミュレーション →
3 辺に立てた正方形、4 枚の並べ替え、直方体の対角線。「見る・確かめる・使う」の 3 段階で、つまみが 2 本から 5 本へ増えていきます。
三角関数 →
3 辺の関係の次は、辺の比と角度の関係へ。sin²θ+cos²θ=1 が三平方の定理そのものだと気づくと、単位円の見え方が変わります。
ベクトル →
矢印の「大きさ」を求める場面で、この式が再登場します。成分から長さを出す計算は、斜辺を求める作業と同じものです。
参考文献・出典
- ユークリッド『原論』第 1 巻 命題 47 — 正方形の分割による古典的な証明
- E. Maor, The Pythagorean Theorem: A 4,000-Year History (Princeton University Press, 2007) — 定理の通史とピタゴラスへの帰属をめぐる議論
- O. Neugebauer & A. Sachs, Mathematical Cuneiform Texts (American Oriental Society, 1945) — 粘土板プリンプトン 322 の解読
- A. Wiles, "Modular elliptic curves and Fermat's Last Theorem" (Annals of Mathematics 141, 1995) — フェルマーの最終定理の証明
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編』 — 中学3年「三平方の定理」の位置づけ
最終更新日:2026-07-28 — STEMアトリエ
