STEMアトリエ / カルマン渦列 / 解説
カルマン渦列とは — 旗がはためき、電線が鳴る「交互の渦」のしくみ
カルマン渦列とは、 流れの中に置いた棒(円柱)のうしろで、渦が左右からかわるがわるちぎれ、互い違いに並んで流れていく現象のことです。航空工学者フォン・カルマンにちなんで、こう呼ばれています。
旗がパタパタはためくのも、強い風の日に電線が「ヒュー」と鳴るのも、おおもとはこの渦です。風を当てて棒のうしろをじっと見ると、いつ・どんな渦が生まれるのかが見えてきます。中学の絵解きから、大学院でふれる渦の安定性の話まで、気になった扉から開いてみてください。
棒のうしろで、何が起きている?
川の中に立てた杭を思い浮かべてください。水が当たる前面ではなく、流れていった「うしろ側」に、くるくると渦ができますよね。空気でも同じことが起きます。風が棒に当たると、棒の表面を回り込もうとした流れがうしろではがれて、渦になる。
このとき、渦は上下そろって出るのではなく、上から一つ、次に下から一つ、と順番にちぎれます。だから棒のうしろには、互い違いの渦の列ができる。これがカルマン渦列です。
旗がはためくのは、渦に押されているから
旗そのものが「ゆれたい」わけではありません。ポールのうしろで渦が左右交互にちぎれ、そのたびに生地が片側へ押される。押される向きが左・右・左・右と入れかわるので、布はパタパタと波打ちます。風が強い日ほどはためきが速くなるのは、渦がちぎれるリズムが速くなるからです。
シミュレーションで「渦に色マーカー」をオンにすると、時計回りの渦と反時計回りの渦が、かわるがわる流れていくのが見えます。
風が弱いと、渦は出ない
意外かもしれませんが、風が弱いうちは渦は出ません。流れが棒にそっと貼りついて、うしろは静かなまま。風を少しずつ速くしていくと、あるところから急に渦がちぎれ始めます。「速くするほど落ち着く」のではなく、「速くするほど暴れる」のです。
この切り替わりの目印になるのが、次の「高校」で出てくるレイノルズ数という数です。
渦は、棒の太さのおよそ5倍の間隔で並ぶ
ちぎれた渦は、下流へ等間隔で流れていきます。その間隔は、棒の直径のおおよそ5倍。細い棒なら細かく、太い棒なら大きく並びますが、「直径の5倍くらい」という比は、大きさが変わってもだいたい同じです。だから数cmの棒でも、数十kmの島でも、同じ模様になります。
つまずきポイント — 「速くすれば静か」が裏切られる
「速くすれば落ち着きそう」「太ければ渦は出にくそう」── カルマン渦では、この見当がことごとく外れます。風を当てる前に、その思い込みを一つずつ裏返してみます。
速い風ほど、流れはなめらかになりそう
うずは、見え方のいたずら(目の錯覚)では?
太い棒ほど空気の抵抗が大きいから、渦は出にくそう
棒を太くすると、渦のゆれも速くなりそう
現実の応用例 — こいのぼり・電線・雲・橋にひそむ
強い風の日、電線が低く「ヒュー」とうなる。あの音の出どころも、棒のうしろの渦です。風にあおられるこいのぼり、空に並ぶ雲、ゆさぶられる橋げた ── ちがう顔をしているだけで、みんな同じ渦のしわざです。
旗・こいのぼりがはためく
電線が「ヒュー」と鳴る(エオルス音)
衛星写真に並ぶ雲の渦
橋・煙突をゆらす「渦励振」と、その対策
よくある質問
Qカルマン渦列とは何ですか?
風や水の流れの中に棒(円柱)を置くと、その後ろで渦が左右からかわるがわるちぎれ、互い違いに並んで流れていきます。この規則正しい渦の列を「カルマン渦列(カルマンうずれつ)」と呼びます。旗のはためき、電線が鳴る音、橋脚のうしろの渦など、身のまわりの多くがこの現象です。
Qレイノルズ数とは?どうやって求めるの?
レイノルズ数 Re は「流れの勢い(慣性)」と「流体のねばり(粘性)」のどちらが優勢かを表す、単位のない数です。Re = U·D / ν で求めます(U は流れの速さ、D は棒の太さ、ν は動粘度=ねばり気)。Re が小さいと流れは静かに棒に貼りつき、大きくなると渦が出ます。円柱のうしろにカルマン渦列が出始めるのは、だいたい Re が47を超えたあたりからです。
Qストローハル数とは何ですか?
ストローハル数 St は、渦がどれくらいの速さでちぎれるか(放出のリズム)を表す、これも単位のない数です。St = f·D / U で、渦放出の周波数 f を、流れの速さ U と棒の太さ D で割って無次元にしたもの。円柱まわりでは St はおよそ0.2でほぼ一定なので、放出周波数を f = St·U/D ≈ 0.2·U/D と見積もれます。
Qなぜ渦は「交互に」できるの?
棒の左右でいちどに渦ができようとしても、片方の渦が育つともう片方を邪魔するため、左右が同時には成長できません。結果として「左→右→左→右」と順番にちぎれていきます。この互い違いの並びが、まっすぐ2列に並ぶよりも安定なことを、理論的に説明したのがフォン・カルマンでした。
Q「カルマン」って人の名前ですか?
はい。ハンガリー出身で、のちにアメリカで活躍した航空工学のテオドール・フォン・カルマン(Theodore von Kármán)の名前です。1910年代に、棒の後ろの渦が「互い違いに並ぶ配置」だけが安定であることを数式で示しました。渦そのものはそれ以前にもベナールらが観察していたため、「ベナール–カルマン渦列」と呼ぶこともあります。
Qカルマン渦は身近などこで見られますか?
旗やこいのぼりのはためき、強風の日に電線が鳴る音(エオルス音)、川の中の杭や橋脚のうしろにできる渦、煙突や高層ビルのうしろの渦など、たくさんあります。スケールが大きいものでは、島の風下にできる渦を雲がなぞり、人工衛星から渦の列が見えることもあります。
やってみよう
ここからは、自分で風を当ててみる番です。風速・棒の太さ・ねばり気のつまみを動かすたび、棒のうしろは静まったり、また渦をこぼし始めたりします。
シミュレーション →
風の速さ U・棒の太さ D・ねばり気 ν。三つのつまみを動かすうち、Re がある値をまたいだ瞬間、静かだった棒のうしろから渦がこぼれ出します。
流れのきほん →
そもそも「流れがはがれる」とは? 連続の式やベルヌーイにつながる、流れの土台のページ。
単振動 →
渦励振でゆれる橋や煙突は、ばねのような単振動の仲間。「固有振動数」とは何かがわかるページ。
参考文献・出典
- 巽友正『流体力学』(培風館)— 円柱まわりの流れ・後流・カルマン渦列の標準的な記述
- A. Roshko, "On the development of turbulent wakes from vortex streets" (NACA Report 1191, 1954) — ストローハル数とレイノルズ数の経験式
- K. Billah & R. Scanlan, "Resonance, Tacoma Narrows bridge failure, and undergraduate physics textbooks" (Am. J. Phys., 1991) — タコマ橋の崩落原因の見直し
最終更新日:2026-06-25 — STEMアトリエ
